Vol.1 信頼しあうことが第一歩
旅立ちの春。学校を卒業し新たな一歩を踏み出す人は多いでしょう。 福岡盲導犬協会訓練センター(福岡県前原市)で訓練を終えた視覚障害者と盲導犬も「卒業式」を経て、新生活のスタートを切ります。 盲導犬の仕事は、目的地まで安全に誘導すること。そのため、使用者の指示に従い障害物などを避けながら誘導するだけでなく、危険を察知して知らせるように約1年かけて訓練します。
誰とでもすぐに呼吸が合うわけではなく、「共同訓練」に取り組まなければなりません。共同訓練の期間は、四週間。使用者がセンターに泊まり込み、盲導犬と暮らしながら、世話の仕方を学び、歩行訓練などを行います。その中で、最も大切で難しいのが信頼関係を築くことです。
6年前、広島から訓練を受けに来た30代の女性は、盲導犬と心を通わせられず悩んでいました。盲導犬が信頼できず、歩行訓練中は腰が引けたまま。犬も不安になり、訓練士の方を何度も振り返るなど、ちぐはぐな状態が続きました。
盲導犬には普通、英語で指示したり、ほめたりしますが、この女性は自分のことで精いっぱい。言葉に気持ちがこもっていませんでした。悩みが徐々に深くなったため、自分の言葉でほめるようにアドバイス。その日の訓練中、盲導犬が横断歩道で止まったとき、女性が「グッド」ではなく「おりこうさん、ぴったんこ」とほめると、盲導犬は初めてしっぽをふり、顔をなめ始めたのです。
使い慣れた言葉だから自然に感謝の気持ちがこもり、盲導犬へ伝わったのでしょう。この日を境に、盲導犬は女性に寄り添うように働くようになりました。一年後、自宅を訪ねると、自転車が乱雑にとめられ歩行しにくい駅へ迎えに来られるまでになっていました。
盲導犬を使う人はよく、パートナーについて「体の一部」と話されます。それだけ、深く結びつけるのは、人と犬が共に生きてきた長い歴史があるからでしょう。動物との付き合い方にはさまざまな形がありますが、盲導犬を紹介しながら、働く犬との関係を考えたいと思います。
Graceful Land 代表 桜井昭生
※文中の人名、犬の名前は個人情報への配慮のため仮名とさせていただいています。