Vol.15 夫婦のきずなも深まる
同じ盲導犬を二人で共用されていらっしゃるケースがあります。 目の病気のため、子どものときに視力を失った熊本県在住の夫婦は、奥さんが先に盲導犬ブライトとの生活をスタート。それから二年後、奥さんがブライトと楽しそうに外出するのに接しているうちに、ご主人も盲導犬を持とうと決心されました。
ただ、2人には当時、盲導犬を2頭持つ余裕がありませんでした。「一緒にブライトを使いたい」と相談されたとき、初めての経験だったので、少しためらいました。奥さんと信頼関係で結ばれているのに、ご主人とも同じような信頼関係を求められると、ブライトは戸惑うのではないか、という不安もありました。
実際に共同訓練を始めてみると、ブライトはご主人の指示に従おうとしません。寝そべっているブライトに「シット(お座り)」と、指示しても知らんぷり。誘導訓練のために街に出たときには、車から降りようともしませんでした。
ご主人とブライトの関係に変化が生まれたのは、共同訓練が終盤に入ったころ。それまで、誘導訓練で障害物にぶつかっても「駄目だよ」と穏やかに接していたご主人が、同じ誘導訓練で自転車にぶつかり「ノー」と厳しい口調でしかった瞬間、ブライトの表情が引き締まったのです。
訓練を始める前まで、ご主人とブライトはいい遊び相手だったので、ご主人はブライトとの接し方に戸惑っていました。同じようにブライトもつい甘えてしまいます。使用者と盲導犬の関係はほほえましく見えますが、使用者には毅然とした態度で接する厳しさも必要。ご主人が友達のような関係に一線を引いたことで、ブライトも新たな関係を結べたのだと思います。
盲導犬を使い始めるまで2人はあまり外出をせず、ちょっとしたことでけんかをしていたそうです。ブライトと暮らし始めてからは、週末に交代で外出を楽しむようになり「喜びを共有でき、今まで以上に夫婦のきずなも深まりました」と、話されていました。
ブライトは4年前に引退。夫婦は今、2代目の盲導犬エメラルドとの生活を楽しまれています。
(福岡盲導犬協会訓練センター元所長 桜井昭生)
※文中の人名、犬の名前は個人情報への配慮のため仮名とさせていただいています。