Vol.17 ベローナの思いかみしめ
中学一年のとき、祖母がベローナというメスのシェパードを譲り受けてきました。 ビオレが死んで2年。私は生後50日ぐらいのかわいいベローナを、私は一生懸命に世話しました。当時ドッグフードは高価だったので、餌は飼育書を参考に自分で作りました。小麦を炊き、魚屋からもらってきた魚のあらをゆで、ドッグフードと混ぜてあげると、ベローナはおいしそうに食べてくれました。
一番の楽しみは、学校から帰宅するときでした。玄関のドアを開けると、ベローナはバタバタと駆け寄ってきました。夕方、家には誰もいなかったので、ベローナが待っていてくれるのがうれしくて、いつもぎゅっと抱きしめたものです。
犬の成長は早く、半年ほどすると手を焼くようになりました。散歩にいくとき、ベローナはいつも飛びついてきましたが、私の服はドロドロ。じゃれてかまれたズボンはすぐボロボロになりました。
「力を持て余しているんだろう」と考えて、2時間も3時間も散歩をさせましたが変化はありません。甘えは徐々にひどくなり、「ヒャン、ヒャン」とヒステリックに泣きわめきます。そしてある日、祖母が、ベローナに飛びつかれて倒れ、けがをしてしまい「自分たちでは世話をしてあげられない」と、知人に引き取ってもらうことになりました。
数日後、学校から帰るとベローナがいなくなっていました。彼女がいなくなった玄関先はがらんとしていて、申し訳ない気持ちでいっぱいになりました。
ベローナの力が強くなってから、私は彼女に飛びつかれるのが嫌で、身構えて接するようになっていました。その心の変化を感じ取り、ベローナはさらに甘えようとしたのだと思います。当時、私はしつけの重要性を知らず、全くしつけをしませんでした。私のせいで、彼女には悲しい思いをさせてしまったのです。
訓練士になり、ときに厳しくしても犬は人から逃げず、むしろ畏敬の念を持ってくれることを知りました。今、しつけの大切さを伝える立場にいますが、いつもベローナとの思い出をかみしめています。
(福岡盲導犬協会訓練センター元所長 桜井昭生)
※文中の人名、犬の名前は個人情報への配慮のため仮名とさせていただいています。