Vol.19 サムと病気を乗り越え
栃木県の訓練センターで研修を始めて2頭目に担当したのがサムでした。1頭目のジュンを盲導犬に育てあげられず、決意を新たに訓練に臨みましたが、3週間後にはサムが皮膚の病気になり、知識がなかった私は、出だしから慌てふためくことになりました。
訓練士は毎朝、犬の体をブラッシングしながら、健康状態をチェックします。このとき、サムの背中にぽつぽつと赤い湿疹ができているのを見つけたので、湿しん用の薬を塗ってあげました。ところが1週間ほどすると、湿疹は一気に全身へと広がり、やがて、皮膚が赤くただれた状態になりました。おそらく、真菌症だったのでしょう。訓練どころではなくなり、サムは治療に専念することになりました。
先輩に教えてもらった治療は地道なものでした。まず、サムの体毛をバリカンで刈り、1日2回、ベビーバスで温泉水につからせます。赤くただれた体をボリボリかくサムを見ていると、申し訳ない気持ちでいっぱいになります。「早く治ってほしい」という一心で、体に染み込むようにマッサージをしてあげました。すると、気持ちがいいのか、サムはうとうとして温泉水に首を突っ込みそうになり、私を笑わせてくれることもありました。
症状が回復するまで約3ヶ月。この間、必死に治療したおかげでしょうか。サムとは、心と心でつながったような関係になり、訓練は順調に進みました。そして、私にとって初めて育てた盲導犬になりました。
訓練センターでは、病気の予防と早期発見に力を入れています。犬の体をブラッシングをしながら耳の穴や皮膚などの状態を確認し、部屋はいつも清潔に保ちます。食物アレルギーの犬がいたこともあり、食事には、化学物質が混じらず自然の素材で作ったドッグフードを使っています。
これまで、すい臓や肝臓の病気になった犬も見てきました。犬も人と同じ病気をします。しかし、犬は人の言葉がしゃべられません。一緒に生きていくためには、いつも体調を気にかけてあげることが大切です。
(福岡盲導犬協会訓練センター元所長 桜井昭生)
※文中の人名、犬の名前は個人情報への配慮のため仮名とさせていただいています。