Vol.2 ロータスに子犬が生まれた
先月末、繁殖ボランティアの平沢さんが飼育しているロータスの出産予定日がやってきました。訓練センターでお産をするわけではありませんが、私たち職員もそわそわします。 平沢さんから電話がかかってきたのは午後7時30分。「いま破水がありました。予定通りに生まれそうです」。と平沢さん一家の長い闘いが始まりました。
平沢さんが繁殖ボランティアを始めたのは3年前。「定年後の生きがい」として協力していただいています。もともと犬好きだったそうですが、16年前に訓練センターが開所したときからボランティアをしたいと思っていいたそうです。
ロータスと平沢さん夫妻にとっては、2回目の出産です。一度、経験しているので破水を知らせる口調は落ち着いたもの。それでも翌日、自宅を訪ねると仕事を休んで手伝われた娘さんを含め、憔悴しきった様子でした。
出産時、子犬はプリンのような羊膜に包まれ“つるん”と出てくるのが普通です。ところが、ロータスの子どもたちのほとんどは、羊膜から足が飛び出すなど逆子の状態。足が産道に引っかかるため、平沢さんが手を差し込み、取り出してあげなければなりませんでした。
今回、ロータスの陣痛は弱く、平沢さんは午後11時に隣町の動物病院に駆けつけ、陣痛促進剤を注射。1頭目が生まれたのは、午後2時、7頭目を取り出したときは朝の10時を回っていました。この間、平沢さんたちはほとんど中腰の状態ですから、疲れ果てるのも無理はありません。
人と同じように犬の出産も大変です。それでも、生まれたばかりの子犬たちが母犬のおっぱいに必死に吸いつく姿を見ていると、命の誕生に立ち会った感激に包まれます。
しかし、平沢さんの表情はいつまでたっても晴れないままでした。大仕事を終えたはずのロータスの呼吸はまだ荒く、落ち着かない様子だったからです。
Graceful Land 代表 桜井昭生
※文中の人名、犬の名前は個人情報への配慮のため仮名とさせていただいています。