Vol.22 協力者を増やす啓発犬
5年間の研修を終え、いよいよ福岡での訓練スタートです。 多くの方々の努力と協力によってできた訓練センターに入ると、期待と責任感で身震いがしました。安定的に盲導犬を送り出すため、いかに協力者を増やすかが当面の課題。啓発活動に力を入れたいと思っていたとき、候補に浮上したのがロベリアでした。
ロベリアは、関東の愛犬家からご寄付いただいたラブラドールで、賢く、優しい犬でした。しかし、人見知りする性格だったので、盲導犬は断念。パピーウォーカーの家族が引き取ってくださったのですが、しばらくすると、パピーウォーカーさんが面白いエピソードを教えてくれました。
パピーウォーカーさんとロベリアが、いつものように散歩をしているときのこと。遮断機が下りようとしているのに、踏切を渡ろうとした奥さんを、ロベリアが止めたのです。訓練をやめても盲導犬魂を失わなかったロベリア。頼もしく感じ、その場で啓発犬の協力をお願いしました。
パピーウォーカーさんは、訓練センターだけでなく、九州各地の小中学校も回ってくださいました。パピーウォーカーさんは、ロベリアをわが子のようにかわいがっていたので、人前でも息はぴったり。「座れ」「待て」「来い」の指示にすぐに反応し、子どもたちが驚くのを、お互いに楽しみ、誇りに感じているようでした。訓練センターにくると、ロベリアがうれしそうにするからなのですが、訓練生から「おいしい食事が楽しみでした」と言われたこともあり、「ロベリアのおかげで生きがいが見つかった」と話されていたのが印象に残っています。
実は、このご家族がパピーウォーカーになってくださるまで、ロベリアは受け入れ先が見つからず、困っていました。そのロベリアがご家族にとってかけがえない存在になったことが、運命的に思えました。
このご家族は、繁殖ボランティアもされています。今年5月、ロベリアの妹分の繁殖犬、8頭の子犬を出産。それを見届けたロベリアは、静かに息を引き取りました。
(福岡盲導犬協会訓練センター元所長 桜井昭生)
※文中の人名、犬の名前は個人情報への配慮のため仮名とさせていただいています。