Vol.24 気兼ねなく店に入る喜び
「きょうの昼ご飯は何にしましょうか」 「そうですね・・・和食はどうですか」 こんな、お昼時の何げないやりとりを、盲導犬を使う人や関係者が普通にできるようになったのは、つい最近のこと。
16年前に訓練センターが開所したころは、盲導犬の認知度が低く、飲食店や宿泊施設の利用を断られることがよくありました。そのため、盲導犬と暮らし始めたのに外出や嫌になった人もいれば、盲導犬を持ちたくても周囲に理解してもらえるか不安で、訓練をためらう人もいました。
長崎県の理学療法士の男性が訓練を始めたのは、1990年冬でした。男性はその1年前、関東の盲導犬協会に申し込みながら、勤務先の病院を説得する自信がなく撤回。しかし、「盲導犬と一緒に、行きたい所へ自由に行く」という夢をあきらめられず、再度、訓練を申し込んだのでした。
男性の準備は周到でした。まず同じ街で暮らす盲導犬の使用者にお願いして、病院の上司に盲導犬との生活について説明してもらいました。盲導犬によって視覚障害者の人生に光がもたらされること。衛生面では、毎日、ぬらしたタオルで体をふき、ブラッシングは欠かさず、月に1回はシャンプーをする。毛が落ちないように「ダスターコート」と呼ばれる服を着せ、トイレは必ず決まった時間と場所でする・・・。
必死の思いが伝わったのか、上司は自ら図書館に足を運び、盲導犬について調べたうえで使用を許可してくださいました。男性が相棒のパールと卒業し、私が勤務先を訪ねたときも、職員のみなさんは親身になって相談に乗ってくださいました。男性の表情は、感謝の気持ちと希望で満ちあふれていました。
昨年10月に「身体障害者補助犬法」が施行されたことで、盲導犬への理解は急速に進みました。
また、盲導犬協会が活動を続けてきたことも理解を深めることにつながっていると思いますが、これは、多くの方々の協力があってできたこと。訓練中、普通に昼ご飯の相談ができる喜びをかみしめています。
(福岡盲導犬協会訓練センター元所長 桜井昭生)
※文中の人名、犬の名前は個人情報への配慮のため仮名とさせていただいています。