Vol.27 支え合って、生きていく
午前7時、訓練センターでは26頭の訓練犬を一斉に運動場へ出します。犬たちにとって訓練が始まる前の、1日で一番楽しい時間です。
どの犬も「ハアハア」と息を弾ませながら仲間を追いかけ、おいしそうに水を飲みます。ひとしきり遊んで、訓練士のそばに近寄ってくる犬もいます。朝のあいさつです。私のところにはコーラルが近づいてきて、冷たい鼻先を手に押し当てます。「おはよう。今日もよろしく」。そう声をかけて頭をなでてあげると、うれしそうにしっぽを振って、私を見つめてくれます。
コーラルは、この訓練センターで初めて生まれ繁殖犬として活躍したパールの孫にあたります。コーラルの娘・ガーベラも繁殖犬になりました。コーラルの目は、パールお祖母ちゃんに似たアーモンド型で、控えめですが輝きを放っています。小麦色の毛色もお祖母ちゃんそっくり。
訓練センターの仲間にチャクラという猫がいます。盲導犬がほかの犬や大嫌いな猫に出合っても動揺しないようにする立派な訓練士で、4代目になります。チャクラは、今日も訓練センター内の歩道にいて「ニャーニャー」と鳴いてコーラルの気を引こうとします。でも、コーラルはチャクラを無視して、さっと通り過ぎます。この調子なら、コーラルの盲導犬デビューは間違いないでしょう。
訓練センターが開所して16年。かつては、盲導犬を知らない人の方が多かったのですが、今では身体障害者補助犬法が施行され、盲導犬、介助犬、聴導犬を総称した補助犬として育成の取り組みが開始されました。おかげで飲食店や交通機関への受け入れも改善されてきました。盲導犬を取り巻く環境は大きく変わり、こうして振り返ってみると感慨深いものがあります。
ただ、決して変わらないこともあります。それは、人と犬が支え合って生きていく姿です。人のために頑張ってくれる犬たち、これからも犬と人と手を取り合い、共に生きていきたいと思います。=おわり
(福岡盲導犬協会訓練センター元所長 桜井昭生)
※文中の人名、犬の名前は個人情報への配慮のため仮名とさせていただいています。