Vol.5 毅然とした態度でしつけ
初めてパピーウォーカーに取り組む人が「盲導犬の卵を預かっているのだから」と慎重になりすぎて、しつけが甘くなってしまうケースが時々あります。 先日、別の用事で訓練センターに来られた中沢さんもその一人。
昨年春からメスのダイアを育てていて「訓練は順調です」と話されていましたが、センターでダイアの訓練の様子を見て驚きました。
ダイアは「ダウン」と指示を受けても伏せようとせず、中沢さんがリードを下にぐっと引き、背中を押してやっと伏せをする状態でした。盲導犬は、使用者にいつも寄り添うように歩きますが、ダイアは中沢さんの1mほど先を引っ張って歩いています。私の指摘で中沢さんがリードを短く持ち並んで歩こうとすると、ダイアはその場に座り込んでしまいます。これではペットを同じです。
盲導犬と使用者は、生きていくためにお互いを必要とする、という意味で対等な関係です。だからこそお互いを思いやる信頼関係を築かなければなりません。「預かっているという気持ちが強く、ダイアに合わせていたのかも」。好きなように過ごさせて喜ぶダイアを見て、信頼関係がはぐくまれていると勘違いされたのでしょう。
犬のしつけは、小さいときに始めなければなりません。1歳を超えるとしつけは難しくなります。
可愛い子犬は、つい甘やかしたくなります。愛情をたっぷり注ぐことは大切ですが、しつけが出来ていなければ、大きくなってから信頼関係が崩れるきっかけにもなります。ときには、毅然とした態度でしつけに臨むことが大切です。
一度、身に付いた習慣を変えるのは大変ですが、ダイアは1歳になったばかりなので大丈夫。しばらくしてから電話をいただき、「散歩に出掛けようと玄関で靴をはいている間、私のことを待ってくれるようになりました」と、ダイアの変化を喜ばれていました。
今月中旬には、ダイアと一緒に近所の障害者施設を訪ね、入所されている人たちと触れ合う計画を立てているそうです。この中沢さんの熱意には、いつも頭が下がります。
Graceful Land 代表 桜井昭生
※文中の人名、犬の名前は個人情報への配慮のため仮名とさせていただいています。