Vol.6 個性に合った道を歩めば
繁殖ボランティアやパピーウォーカーの皆さんに協力していただくようになり、一割程度だった盲導犬の合格率は三割ほどになりました。とはいえ、盲導犬が不足している事情を知るボランティアは不合格の知らせにショックを受けます。私たちにとっても一番、心苦しい瞬間です。
小宮山さんが二頭目に預かったリンダは、どんなときも落ち着いて行動する利口な犬だったそうです。ところが、センターで訓練を始めると、小宮山さんにはみせなかった一面を見せました。私やほかの訓練士が犬舎に入ると、ほえたり、うなったりして、小宮山さん以外の人を信頼しようとしないのです。
「家では、お客さんにほえたことは無かったのですが…」と小宮山さんは気を落とされていましたが、育て方が悪かったのではありません。リンダは、自分を守ってくれる小宮山さんと離れて不安になったのでしょう。リンダの資質が盲導犬に向いていなかったです。
結局、リンダは盲導犬になれませんでした。小宮山さんは落ち込まれていましたが、3頭目を預かったわんぱく者のポールによって、考え方が変わったそうです。
ポールは、トイレに行きたくなると、玄関ドアに体当たりして催促。車に乗る訓練では車内で騒ぎ続け、歩行訓練では面白そうなものを見つけると追いかけ回す活発なタイプでした。遊ぶことが大好きなポールも盲導犬になれませんでしたが、鹿児島にペットとして引き取られ、今はフリスビー大会や「アジリティー競技」と呼ばれる障害物競技の大会で、大活躍しています。
盲導犬になれなくても「落ちこぼれ」ではありません。ペットとして家族のきずなを深めたり、競技の世界で活躍したりすることもあるでしょう。それぞれの資質に合った道を歩めるよう、いろんな人たちに協力をお願いするのも、私たち訓練士の大切な仕事です。
それにしても、ポールが競技の世界で活躍するとは。小宮山さんもポールと出会い、力を抜いて、犬との生活を楽しめるようになったと話されていました。
Graceful Land 代表 桜井昭生
※文中の人名、犬の名前は個人情報への配慮のため仮名とさせていただいています。