Vol.9 力任せでなく同じ目線で
センターに入った犬はまず、服従訓練から始めます。 「シット(お座り)」「ダウン(伏せ)」「ウェイト(待て)」といった基本動作を学びます。この動作を教える訓練士には犬の心をつかむ力量が必要。犬だけでなく、研修中の訓練士の卵にとっても最初の試練となります。
4年前に訓練を受けたロッキーの担当者は、研修を始めて2年目の男性。ロッキーはともて活発な性格で外では走り回ってばかりで、訓練はスムーズに進みませんでした。
服従訓練の第1ステップはお座りです。お座りをさせるコツは、首ひもを右手で引き上げ、左手で腰を押し下げてあげます。中堅の訓練士で3日ほどかかります。この研修生は4日目で成功しました。問題は伏せでした。訓練士は犬の背中にまたがって体重をかけ、前足を伸ばして伏せの姿勢をとらせます。ただ、訓練の意図がうまく伝えられないと犬は反発します。犬の力は強く、ロッキーが「力なら負けないよ」と、飛び跳ねると手は付けられません。
研修生は焦りから無理に押さえつけようとし、ロッキーが反発する日々が2週間も続きました。
訓練がうまくいかないと力任せになりがちですが、お座りや伏せを指導するときは、犬の気持ちを考えて教えてあげる姿勢が大切です。例えば、伏せの訓練では「ダウンだよ、ダウンだよ」と、優しく語りかけることで心を開かせます。訓練に飽きないよう遊びを織りまぜ、粘り強く続けることも必要で、伏せをしたときには心からほめてあげます。
意図の伝え方は、犬によって異なります。私はロッキーの担当者に、試しに伏せと同じ姿勢をとり、前足を少しずつ手前に引っ張ってあげるようアドバイスしました。
「ダウンだよ。そうダウン」。研修生が声をかけながら前足を引っ張ってみると、今までの反発がうそのように、ロッキーは自然に伏せをした。
研修生の目線が同じ高さになり、ロッキーも心を開いた。「グーット、グーット」と相方をほめる研修生と、しっぽをパタパタと振るロッキー。お互い二週間も苦労しただけに、喜びは大きいようでした。
(福岡盲導犬協会訓練センター元所長 桜井昭生)
※文中の人名、犬の名前は個人情報への配慮のため仮名とさせていただいています。